シューマンに関するコラム
〜トロイメライ Träumerei 5月号〜
第2回 文学少年シューマン
<< - 2009.05.01 - >>

先月号で、シューマンが文学の才能も発揮していたことを書きました。文章を書くことが好きだったシューマンは16歳から日記をつけ始め、ほぼ一生にわたってこの習慣を続けます。

ちなみに彼の日記やメモ帳は、先月ご紹介したシューマン博物館が所蔵しており、事前に申し込めば閲覧することが可能です。彼の日記帳を開いてみると、小さな字でびっしりと書き込んであるのに驚きます。メモ帳の一つには、シューマンが押し花にしたと思われる草花も丁寧に貼りつけてあって、性格の細やかさがうかがえます。

さて、彼の日記を実際に読んでみると、シューマンが当時想いを寄せた女性の名前がいくつか登場しますが、その一人にアグネスという年上の女性(しかも人妻!)がいます。アグネスはエルンスト・カールスという医師の妻でソプラノ歌手でもありました。シューマンがアグネスの誕生日に書いた詩が日記に残っていますので、一部日本語に訳してみましょう。

シューマンの日記
シューマンの日記(シューマン博物館所蔵)

「・・・ある美しき6月の夜、一人の若者が物言わず、思いにあふれ、春爛漫の中を歩いていった――花々は穏やかにまどろみ、迷える一羽のナイチンゲールが、妙なる夢の中から出てきたかのように、啼きながらまどろむ花と共に飛びゆき、風に吹かれた蛾がいまだ黙してうち震え、まばゆい大理石の像のそばでバラのつぼみが揺れた。静かに眠る向こうの村で12時の鐘が 鳴った。星は言った。『今日彼女は生まれた。だから今夜は雲に彼女の心を曇らせてほしくないのだ。たった一つの星に夜通し光っていてほしい』 バラは星の下で目を覚ましうち震えた。バラは言った。『私たちは星たちの娘です。そして今日生まれた女性の似姿です。だから彼女には私たちのように永遠に微笑んでいてほしいのです。毎日彼女に棘のないバラがもたらされますように』 (中略)…若者は空と星を見上げ、物悲しげに独り言を言った。『もし僕が星であったなら、彼女を照らしてあげたい。もし僕がバラであったなら、彼女のために咲きたい・・・』。そして彼は泣いた。なぜなら彼はそのいずれでもなかったから、そして願うことしか彼女に与えることができなかったである。しかし彼は、その願いの全てが叶いますようにと祈った。なぜなら彼女は全てを与えられるに値する女性だからである・・・。」

かなり素直な想いを綴っていて微笑ましいですね。同じ時期、シューマンは小説にも挑戦しています。『ゼレーネ』というタイトルのこの小説は未完に終わりましたが、二組の兄妹が主人公で、ミイラや骸骨も登場するちょっと不気味で幻想的な小説です。私の博士論文でこの小説を日本語訳しましたので、興味のある方はそちらもお読みください。

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