〜トロイメライ Träumerei 2月号〜
第11回 《謝肉祭》 作品9 〜その2〜
<< - 2010.02.02 - >>

先月号では、謝肉祭がヨーロッパ特有のどんちゃん騒ぎのお祭りであること、そしてシューマンが謝肉祭やそこで行われる仮面舞踏会というテーマにとても興味を持っていたことをご説明しました。今月からはいよいよ曲の中身に入っていきましょう。

《謝肉祭》は、21の小曲の連なりからできています。これらの小曲にはそれぞれタイトルがついており、シューマンの仲間である「ダヴィット同盟員」をはじめとした様々な人物があちこちから顔をのぞかせながら、謝肉祭での仮装パーティーの様子が描写されています。以前ちらっと触れましたが、「ダヴィット同盟」とは、シューマンが自分と共通する音楽観を持った人たちで作った仮想の音楽集団です。シューマンはダヴィット同盟によって、当時主流だった低俗な音楽や音楽家と戦い、理想の音楽を作り上げようとしていました。また、この曲には「4つの音符に基づく愛らしい情景」という副題がついています。それは、この曲が4つの音を主題とした小曲の組み合わせからできているからです。シューマンはこの4つの音で作った主題を曲中で提示しています。第8曲と第9曲の間に挟まれた「スフィンクス」という部分です。

この「スフィンクス」は伝統的には演奏されないことになっています。いわば「スフィンクスの謎を解く、隠された鍵」というような意味合いなのでしょう。これらは、A- S- C- Hという4つのアルファベットを音型化したものです。

 SをEsと読み替えれば、A-Es-C-H、ドイツ音名でラ-ミ♭-ド-シという音型が現れます。これが「スフィンクス」の音型3。AとSの2文字をくっつけてAsにすれば、As- C- H、すなわちラ♭-ド-シ。これが音型2。そして音型3をEsから始めたのがEs- C-H -A、ミ♭-ド-シ-ラ。これが音型1です。

ASCHというのは何かというと、ドイツ国境に近いチェコの街の名前です。シューマンには当時恋人がいました。ダヴィット同盟員の一員でもあったエルネスティーネという女性で、ヴィークにピアノを習っていました。シューマンは恋人と故郷の街の名前と自分の名前の綴り字が重なり合う(SCHumAnn)ことに気づき、音楽的興味を惹かれたのでしょう。この4音を主題とした小曲集を作ることを思い立ちました。このような「音名に引っかけた遊び」はシューマンが得意としたもので、9月号で取り上げた《アベッグ変奏曲》でもすでに試みられていましたね。ちなみにACSHをそのままの順番で音にしたのが音型3で曲の中でも最も頻繁に使われています。一方、シューマンの名前(SCHumAnn)に出てくる順番に並べたものは音型1で、これは彼自身を象徴する音型として曲の中で密かに使われています。

《謝肉祭》にはキャラクターの異なる21曲もの小曲が入っていますが、これらはすべてこの4つの音から派生しています。それではシューマンがこの4つの音をどう料理しているのか、来月号をお楽しみに!

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