〜トロイメライ Träumerei 4月号〜
第13回 《謝肉祭》 作品9 〜その4〜
<< - 2010.04.01 - >>

先月号の続きで、第7曲目からさっそく見ていきましょう。
第7曲: コケット 、第8曲:応答

第6曲目の「フロレスタン」の興奮が行き場を失ったまま唐突に終わった後、登場するのが「コケット」です。コケットは日本語に訳すと「媚態」で、なんだか雰囲気が出ませんが、気まぐれな魅力を持つ女性を思わせます。まるで興奮したフロレスタンを軽くなだめているような音楽です。ここにも音型3が使われています。
「コケット」を受けて出てくるのが次の「応答」。どことなくセンチメンタルなメロディーです。この曲にはASCHの音型はなかなか用いられないのですが、実は曲の終わりに隠されています。音型1が逆さになっているのです。なお、音型1はシューマンの名前の綴り字に出てくる順番に音を並べた形であることから(ミ♭-ド-シ-ラ→S- C-H ?A→SCHumAnn)、シューマン自身を暗示したものだという説もあります。彼がどんな応答をしたのか気になりますね。

第9曲:パピヨン
パピヨンとは「蝶々」という意味です。蝶々はシューマンのお気に入りの言葉だったらしく、彼の作品や手紙の中でよく登場します。彼にとって蝶は、希望や喜びといったイメージを持っていたようです。この曲でも沸き起こるような喜びが表現されています。

第10曲: A.S.C.H.-S.C.H.A.(踊る文字)
これまでは音型3が主に使われていましたが、ここからは主に音型2が使用されます。文字が宙を舞っているような軽やかなワルツです。

第11曲: キアリーナ
「キアリーナ」とはクララの同盟員名。クララはこの当時まだ16歳でしたが、この曲がやけに情熱的なのを考えると、彼女に対するシューマンの想いはこのころから徐々にふくらんでいったのかもしれません。

第12曲: ショパン
シューマンが書いた初めての評論はショパンの作品についてでした。その中でシューマンは「諸君、脱帽したまえ。天才だ!」と書いてショパンを激賞します。そんなショパンへの敬意と熱狂が感じられる曲です。分散和音の伴奏と歌うような旋律といったとショパンのスタイルを真似て書かれています。曲の終わりに音型3が少し変形されて登場します。

第13曲:エストレラ
エストレラとはエルネスティーネの同盟員名。以前にも書きましたが、エルネルティーネは一時シューマンの恋人であった女性で、シューマンは彼女の故郷の街アッシュ(ASCH)の文字をもとにこの曲を書いたのです。ショパンを挟んで将来の妻と昔の恋人が配置されているという、考えようによってはちょっと怖い図です。以前、ロシア人の先生がこの曲について「クララに心惹かれているシューマンを見たエルネスティーネが怒って部屋を出て行った様子だ」と言っていて、ホントかなあ〜?という感じがしましたが、確かに全体的にちょっとヒステリックな曲調で、最後はドアをバタンと閉めたように終わります。

第14曲: 再会
ここでも音型2が使われています。仮面舞踏会で知っている人に再会したような、そんな楽しさにあふれた曲です。


それでは次号でいよいよフィナーレに向かいます!

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