〜トロイメライ Träumerei 5月号〜
第14回 《謝肉祭》 作品9 〜その5〜
<< - 2010.05.01 - >>

5か月にわたる《謝肉祭》の連載も今月号で最後。フィナーレにむかって行きましょう!

15. パンタロンとコロンビーヌ

第2曲・第3曲の「ピエロ」「アルルカン」に続く、コメディア・デラルテの登場人物です。パンタロンは好色でお金持ちの老人、コロンビーヌは若い召使です。コロンビーヌが小道具として持っているタンバリンはパンタロンがしつこく言い寄ってくるのをかわす目的で使うそうです。なるほど中間部で右手で弾く和音はコロンビーヌが逃げながら打ち鳴らすタンバリンの音を模しているかのようです。結局は体よくあしらわれるパンタロンをうまく描いています。

16. ドイツ風ワルツ

典雅でしゃれたワルツ。真ん中に「パガニーニ」と題された間奏曲が挟まれます。シューマンはシューベルトのような内面的な音楽を愛しながらもパガニーニの華麗な超絶技巧にも憧れを持っていました。パガニーニの演奏を聴いて音楽家になる決心をしたこと、指の訓練機を過度に使用し手を痛めてしまった事実からもそれが分かります。


↑17.パガニーニ(間奏曲)

シューベルト、フロレスタン、オイゼビウス、クララ、エルネスティーネ、ショパン、そしてパガニーニ…シューマンが敬愛した音楽家や親しい仲間たちがもれなく登場するのが《謝肉祭》なのです。

18. 告白
謝肉祭も終盤にさしかかったところで始まる内気な「告白」。おずおずと話し出す様子や胸の高鳴りが表現されています。後半の曲はほとんどが音型2 (As- C- H、ラ♭-ド-シ)でできていますが、同じ音の連なりで、ここまで異なるキャラクターを生み出せるということに改めて驚かされます。

19. 散歩
「告白」がうまくいったのでしょうか。会場を抜け出して2人で散歩に出かけたような広々とした音楽です。こうしてひと組のカップルが誕生したところでお祭りはフィナーレを迎えます。

20. 休憩
「休憩」と書いてありますが、演奏者のほうはちっとも休憩できません。奔流のように旋回しながらどんどん興奮を高め、一気に終曲へと突入します。

21. 終曲:ペリシテ人と闘うダヴィット同盟の行進
何度かこのコラムでお伝えしましたが、「ダヴィット同盟」とは、シューマンが自分と共通する音楽観を持った人たちで作った仮想の音楽集団。ペリシテの巨人ゴリアテを倒しイスラエルの王となったダヴィデからその名をもらっています。つまり、「ペリシテ人」(ここではドイツ音楽を硬直化させる保守主義者たち)を、「ダヴィッド同盟」のロマン主義者たちが駆逐しようとする勇ましい行進です。途中で「17世紀の旋律」と書き込まれた低音主題が現れますが、これは「おじいさんの踊り」という大衆歌曲です。この流行歌についてはシューマン自身もよく知っており、他にも《パピヨン》作品2や《子供のためのアルバム》作品68−39にも一部使っています。《謝肉祭》では、「おじいさんの踊り」は音楽ペリシテ人たちの堅物ぶりを表現しており、それをダヴィッド同盟員が追い立てていく様が表現されます。

圧倒的な迫力で音楽が高揚し、最後は同盟の勝利を高々と歌い上げて幕を下ろします。

内省的な作風の多いシューマンですが、この曲は全体的に華麗で演奏効果も高く、リストやクララも好んで演奏会で取り上げました。ラヴェルなど他の作曲家も、管弦楽用に編曲したりしています。ですが単にキャッチーで華やかなだけでなく、この作品にはいろいろな種類の革新性があります。音名に引っかけた遊び、その制約の中で多彩な性格の曲を作る技、実在の人物も架空の人物もひっくるめて登場させる楽しさ、そしていろいろなものを暗喩する仮面性…。この曲は、そういった作曲手法を存分に発揮しながら、これからの音楽を自分が背負っていくのだ…というシューマンの高らかな宣言なのだと思います。若きシューマンの記念碑的作品です。

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