〜トロイメライ Träumerei 7月号〜
第16回 シューマンは筆マメ
<< - 2010.07.01 - >>

シューマンとクララがいつ頃から互いに好意を抱き、どのようにして結婚に至ったのかということはかなり詳細に分かっていますが、それは彼の筆マメさに大きく起因しています。シューマンの書いた日記や手紙の量は膨大で、それらを読むことによって彼のプライベートな部分がつぶさに分かるのです。今のように電話やメールのない時代ですから、当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、それにしてもシューマンは友人に、家族に、恋人に、手紙を書いて書いて書きまくりました。もともと作家になりたいと思っていたくらいですから、書くことに情熱を感じていたのでしょう。

当時のヨーロッパの郵便馬車

ところで当時のヨーロッパの郵便事情はどうだったのでしょうか。郵便は、古代ローマの制度にならって、駅と馬を備えた一大機関として1500年頃から整備され、1516年、神聖ローマ帝国の認可を受け、ドイツのタクシス家による独占企業として発足します。18世紀には正確さとスピードを誇るようになりました。今の私たちには驚きですが、料金は受取人払いでした。切手の制度はようやく1840年にイギリスで始まりましたから、それ以前は重さと距離に応じて受取人が払っていたのです。モーツァルト父子も旅先から多くの手紙を出していますが、彼らの手紙は遠くなるほど字が小さくなっています。

ポストホルンが描かれた切手

郵便馬車は公道上の優先権を持ち、王侯貴族といえども、ポスト・ホルンを吹き鳴らす郵便馬車には道を譲らなければなりませんでした。現代のパトカーや消防車に似ていますね。この郵便馬車はやがて郵便だけでなく人も運ぶようになり、座席にクッションを敷いた6人乗りの乗り合い馬車となりました。
生まれ故郷ツヴィッカウを出てライプツィヒに出てきたシューマンは、日々の様子を母親に実にマメに書き送っています。シューマンの手紙を少しのぞいてみましょう。「あなたの生活が平穏で、曇りなく、そしてなごやかな、やわらかなアッコルドのように澄んでおりますように。美しい夕空の眺めよりも多くの雲がありませんように。またなごやかな平和な虹のために必要な以上に雨が降ることがありませんように。(中略)お母さん、何事にも終わりがあります―― しかし僕の子としての愛は永遠です。そしてあなたの母親らしいやさしさも、いつまでも続いてくださるように!昔も今もまた将来もいつもあなたを心から愛する息子のロベルトより」といった、詩的で真心あふれる手紙もあれば、「愛するお母さん、眼鏡を手にとって下さい。今は郵便料金が高いので、細かく、うんと細かく書かないわけにいかないのです。」といったユーモラスなものもあります(ともに『若き日の手紙』堀内明訳 より引用)。

来月からはクララとの間に交わされた手紙をご紹介しましょう!

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