シューマンに関するコラム
〜トロイメライ Träumerei 11月号〜
第20回 作風の変化
<< - 2010.11.01 - >>

作家が、悲しい時に必ずしも悲しい小説を書くわけではないように、作曲家だってその時の自分の精神状態をそのまま曲に反映させるわけではありません。
それでも、シューマンの場合、クララに恋する前と後では作品に大きな違いがあるように思います。このようにざっくり分けてしまうのは危険かもしれませんが、ヴィークの大反対を受けながらクララとの恋を貫こうとしていた頃のシューマンの曲には、それ以前の曲に比べて、暗い情念や激しい不安感、愛への渇望と憧れが、常に安定することのない波動となって底流しているように感じます。すべてがそうとは言えませんが、それ以前のシューマンの曲にはもっと無邪気で瑞々しい晴朗さが目立っており、それが彼の音楽の第一の特徴でした。
この時期の曲が表しているように、クララとの「許されざる恋」はシューマンをたびたび大きな不安や絶望に陥れました。ヴィークの妨害は執拗で時として卑劣でもあったため、シューマンは大きな精神的ダメージを受けました。ヴィークはシューマンの悪口を捏造してクララに伝えたり、自分に従わなければ彼女の演奏活動を邪魔すると脅迫したこともありました。父親に大きく依存していたクララは父親と恋人の板挟みになり、シューマンとの恋を諦めようとしたこともあったので、シューマンは胸が掻き毟られるほどの怒りと嘆きを感じたでしょう。また、シューマンはこの時ほど、自分の無名を恨んだことはなかったと思います。そうした深い悩みの中から生まれた彼の新しいデモーニッシュな側面は、やがてシューマンの音楽の第二の特徴であり大きな魅力となっていくのです。来月はその中から3曲のピアノソナタをご紹介します。

シューマンのサイン
 
 
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