シューマンに関するコラム
〜トロイメライ Träumerei 12月号〜
第21回 クララとの愛で生まれた傑作
〜ピアノ・ソナタ第1番 作品11〜
<< - 2010.12.01 - >>

シューマンのピアノ・ソナタは全部で3曲ありますが、彼のピアノ作品の中でソナタは決してメジャーな部類には入りません。ショパンやリストのピアノ・ソナタが間違いなく彼らの代表作の一つであるのに比べて、シューマンのピアノ・ソナタは、どちらかと言えば評価の低い作品であり、演奏される機会も他の作品に比べれば少ないでしょう。これらのソナタは「シューマンには大きな形式の曲を書く能力にあまり恵まれなかった」という見解が示される時にしばしば例として挙げられることすらあります。
でも果たして本当にそうでしょうか。確かにシューマンのピアノ・ソナタには、形式と情熱がせめぎあっているような息苦しさや、ずいぶん混みいった印象を人に与えることはあります。しかし、ひたすら疾走していくような暗い激情こそが、これらのソナタに一種独特の魅力を与えています。また、形式の面でも、シューマンは決して大形式の曲を書く能力に劣っていたわけではなく、むしろ非常に独創的でありました。ですが、このコラムでは主にクララとの関連を追うことにして、まずは1番のソナタから見て行きましょう。
ピアノ・ソナタ第1番(作品11)は1832年から1835年の間に作曲されました。エルネスティーネとの婚約を破棄して、クララに恋愛感情を抱くようになった頃にあたります。シューマンは、クララに宛てた手紙でこのソナタについて「君に対するただ一つの心の叫び」と語っており、この曲が出版された時にも「フロレスタンとオイゼビウスからクララに献呈」と記しました。それだけではありません。第1楽章の主部の主題はクララの作曲した「魔女の踊り」という曲が元になっているのです。

♪シューマンのピアノ・ソナタ第1番(作品11) 1楽章


♪クララの《魔女の踊り》(作品5−4)

第1楽章は、主部の前に序奏が置かれているのですが、この序奏がとても特徴的です。ソナタに序奏がつくこと自体はしばしばあることですが、このソナタの序奏はそれまでの常識を打ち破るほど長くて壮大なもの。このソナタの魅力は、この序奏に負うところが大きいような気がします。聴く者をいやおうなく幻想の渦へと連れこみます。

 
 
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