シューマンに関するコラム
〜トロイメライ Träumerei 1月号〜
第22回 クララとの愛で生まれた傑作
  〜ピアノ・ソナタ第2番 作品22〜

<< - 2011.1.1 - >>

今月はピアノ・ソナタ第2番についてのお話をします。このソナタは第1番に比べるとコンパクトで、形式的にもより古典的です。そのためか、ピアノを学ぶ人たちにとっては比較的早い段階で勉強する曲です。私も中学生の時にこの曲を初めて弾きましたが、その時の感想は「なんだかせわしない曲だな」というものでした。というのも、この曲は全部で4楽章ですが、ゆっくりとした2楽章を除いては「できるだけ急速に(第1楽章)」、「きわめて急速に明瞭に(第3楽章)」、「とても速く(第4楽章)」といずれもやたら速いテンポ設定がされているのです。それに加えて、シューマンの好きなシンコペーションや裏拍の強調がたくさん使われており、なんだか落ち着かない印象が当時は残りました。
私がこの曲の良さを感じられるようになってきたのは最近のことです。シューマンの求める限界ギリギリの速いテンポが、まるで限界ギリギリの精神を抱えたまま疾走しているかのように感じられ、シンコペーションの鋭いリズムが、シューマンの激情を表現しているように思えるようになりました。また、このソナタは両手の音域の間隔が全体的に狭いのですが、その狭さも、息苦しさ、せめぎあいというこの曲に雰囲気に一役買っている気がします。
ソナタ第2番は、第1番が完成したしたすぐ後の1835年10月に完成されました。この時期シューマンとクララの愛は急速に進展しています。11月15日に初めてのキスが交わされ、12月には「オイゼビウスのキアリーナへの熱烈な手紙」という評論をシューマンが『音楽新報』に掲載しました。オイゼビウスはシューマン、キアリーナはクララのことですから、これは公開ラブレターのようなものです。加えて、このソナタには1つのモティーフが曲全体を統一しているという特徴があるのですが、その中心動機となっているのがクララへの思慕を暗示していると言われる下降音型です。曲のあらゆる所に使われています。

♪第1楽章 第1主題


♪第3楽章 第1主題後半
♪第4楽章 2つ目の主題

また、このソナタは前述したように1835年に完成されましたが、1838年に終楽章が新しく書き換えられています。シューマン自身の終楽章に満足していなかったようですが、この新しい終楽章はクララの「あなたは終楽章をすべて以前書いたままにしておくつもりですか。あれは難しすぎるので、少し書き換えて分かりやすくした方がよいでしょう」という意見によるところが大きいようです。削除された最初の終楽章はシューマンの死後10年たってから独立したピアノ曲《プレスト・パッショナート》として出版されました。興味のある方は聴いてみてください!

 
 
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